『i人経営 瞑想から生まれた新ビジネスモデル』(日経BPコンサルティング)

ホットヨガスタジオ「LAVA」、日本初のインドアサイクル専門スタジオ「FEELCYCLE」、「まんが喫茶ゲラゲラ」など、人気サービスを展開するベンチャーバンク。インキュベーション・カンパニーとして、新規事業を創出し続けるベンチャーバンクがスタートした戦略的分社経営、「i人経営~アイジンケイエイ~」とは何か。その全貌を創業者が語る。

《 Contents 》
プロローグ FEELCYCLE旋風
第1章 新生・ベンチャーバンク発進
第2章 新規事業創生に込めた想い
第3章 企業理念に「魂」を込める
第4章 瞑想とビジネスと人生と
第5章 社長たちに聞く、新出発への想い
エピローグ 「i人」になりませんか

鷲見貴彦(すみ・たかひこ)

株式会社ベンチャーバンク 代表取締役会長、株式会社LAVA International 代表取締役社長。1959年生まれ。
岐阜大学教育学部卒業後、名古屋の出版社に入社し、コンピューター部門に配属。1989年株式会社船井総合研究所に転職し、経営コンサルタントとして数々の実績を残す。 1990年にベンチャーバンクの前身となる有限会社トータルアクセスカンパニーを設立。1994年に株式会社船井総合研究所を退社。
その後さまざまな新規事業を立ち上げ、2005年4月株式会社ベンチャーバンクを設立。インキュベーション・カンパニーとして、「LAVA」「FEELCYCLE」「まんが喫茶ゲラゲラ」「養蜂堂」「ゆずりは」「ファーストシップ」「REAL FIT」「Re:Bone」「mana Labo」「泰氣堂」「DanjoBi」「プラチナボディ」「天空の庭 天馬夢」「JUMP ONE」などさまざまな事業を創出する。著書に『僕の会社に来なさい』(2005年、ゴマブックス刊)。

『i人経営』出版記念 鷲見貴彦・特別インタビュー

10月27日、株式会社ベンチャーバンク代表取締役会長・鷲見貴彦が新たな経営手法について余さず語った、『i人経営』(日経BPコンサルティング)が刊行された。新規事業を次々と打ち出し、軌道に乗せてきた同社が2016年10月、4つの事業を「子会社化」するのではなく、「分社化」を発表した理由とは。エゴを捨てて社員の「ワクワク」と「幸福」を求める大きな理念について聞いた。

情熱の行き先を探すビジネスパーソンへ――
幸福の追求から生まれた「分社化」構想

――『僕の会社に来なさい』以来、約10年ぶりの著書は、『i人経営(アイジンケイエイ)』というインパクトのあるタイトルになりました。まずこの言葉に込められた意味から教えてください。

 利益だけを追求したり、会社の規模を大きくしたりするのではなく、自分(I=アイ)と自分に関わる人を愛(アイ)し、幸せにする――という、ベンチャーバンクが目指している新しい経営の形を表す言葉です。そして、これはホットヨガスタジオ「LAVA」、インドアバイクエクササイズ「FEELCYCLE」、まんが喫茶「ゲラゲラ」など、多くの新規事業を立ち上げてきた“インキュベーション・カンパニー”としての理念にも深く関わるもので、「incubation」の頭文字「i」を取ったものでもあります。

――この本を世に出そうと考えたきっかけとは?

 本書に詳述している、分社の仕組みを考えついたことが大きかったですね。これを提示することが弊社の取り組みを多くの方に知ってもらうチャンスだと捉え、執筆することにしました。また、10年前と同じように、主に20代から30代で、何かやりたいという情熱はあるのだけれど、それをどこにぶつけたらいいのかわからない、というビジネスパーソンにメッセージを伝えたいという思いもありました。この本がきっかけでベンチャーバンクに関心を持ち、仲間になってくれる人が増えたらうれしいですね。

――さっそく分社構想について伺います。2016年10月に発表されたものですが、好調の新規事業を子会社として独立、ホールディングス化するのではなく、4つ会社に分社化し、ベンチャーバンク本体の「兄弟会社」として並列の関係にする、という新しい仕組みです。

 皆が幸せになるためにはどうすればいいか、ということを追求した結果として、分社化という発想に行き着きました。新事業が軌道に乗ったときに、社内の一事業部のままでいるよりも、新会社として独立したほうが飛躍的に成長、発展できる事業があります。経営者にとって、生み出した事業が人の手に渡る、自分の手を離れるというのはおそらくもっとも嫌なことですが、そのエゴを取り去って考えたときに、今回のような分社化がベストだと思い至ったのです。子会社としてぶら下がり続けるのではなく、事業にとってよりよい相手との協業も可能になりますし、世の中に新しい経営者を送り出すこともできる。そして、新事業を生み出し、巣立つときまでそれを育てる――という、インキュベーション・カンパニーとしてのベンチャーバンクの役割も明確化します。会社全体、従業員にとっても何も悪いことはないでしょう。

ビジネスには「成功」と「大成功」しかない
常にチャレンジできる環境を維持するために

――多くの経営者がホールディングス化など、会社の拡大を目指すなかで、「エゴ」を捨てて、違う発想に行き着いた背景には、どんなきっかけがあったのでしょうか。

 本書のサブタイトルは「瞑想から生まれた新ビジネスモデル」としました。つまり、瞑想をするようになって、「何が本当の幸せか」ということを突き詰めて考える時間ができたのです。成長している企業のなかにいると、どうしても事業のことしか考えられなくなる。「事業の拡大」にとらわれ、「社員の幸福」には目が行きづらいんです。忙しいと視点が外に向き、なかなか内には向かわない。外を見る、というのは比較論であり、誰々に勝つとか、優位な立場を得るとか、日本一になるとか、世界一になるとか、そういうわかりやすい目標を立てることになります。それは社員がついていく旗にはなると思いますが、売り上げが世界一になっても、必ずしも幸せになれるわけじゃない。私もかつては深く考えていませんでしたし、多くの経営者もまた、ほとんど考えていないことだと思います。

――人を育てて、事業を育てて、みんなが幸せになることこそが、ベンチャーバンクが求めるものであるという理念が固まったと。

 ベンチャーバンクの理念自体は、最初からイメージがあったのですが、それがシンプルなものに集約していきました。当初、行動指針は22もあり、これでは何が本当に重要か分かりづらかった。今は3つの考え方に集約しています。つまり、「感謝」「素直な心で行動すること」「長所伸展」です。常に感謝を忘れず、素直な心でチャレンジを続け、自分が本当にやりたいこと、長所を伸ばしていく。それが幸福につながっていくと考えています。もちろん、頭では分かっていても行動に移せていない人もいると思いますが、研修に朝礼にと、継続して言い続けることで、気づく瞬間が訪れるはず。チャレンジして、失敗して、成功して、という繰り返しのなかで学習するしかないことです。

――「失敗」のとらえ方も、この本の中に書かれています。「ビジネスには成功と大成功しかない」という言葉にまとめられていますが、なかなかそうは思えず、失敗を恐れてしまう人も多いのではないでしょうか。

 もちろん、失敗は避けた方がいいんですよ(笑)。実際、最初から失敗してもいいと思って立ち上げる事業はありません。ただ、失敗を恐れるあまり、慎重になりすぎて、時間ばかりを浪費してしまうのはよくない。重要なのはチャレンジして、失敗したときにその経験をどう捉えるかです。逆に考えると、失敗した数が多いほど成功の可能性も高まるもので、失敗せずに成功だけしようというのは、虫のいい考えでしょう。成功するつもりでチャレンジして、失敗から学ぶんです。

――ベンチャーバンクには、失敗した人がきちんと学び、次にチャレンジできるような環境があるということですね。

 そうですね。自分はできると思っていたのに結果が出ないとか、思うように伸びないという人は、社内にたくさんいます。問題は、本人がそのことにどう向き合うか。うまくいかないことには、絶対に理由がある。そこに気づき、克服できるような環境を常に整えておきたいと考えています。

状況に応じて変わるリーダーの資質
ベンチャーバンクが求める人材とは?

――多くの社員の方をご覧になってきたなかで、チャレンジを重ねるなかで伸びていく人には、どんな資質があるでしょうか?

 伸びるのはやはり、ビジネスが好きな人ですね。気づけば経営本を読んでいたり、「社長になりたい」と具体的に考えていなくても、無意識に「自分が経営者ならどうするか」と考えてワクワクしている人が、成功する可能性が高い。役割を与えられて、初めて「さあどうしよう」と考える人は、これに比較して弱いということです。私自身、ビジネスが好きで、チャンスは逃すまいとしてきました。他方で、プライドだけ高く、仕事に貴賎をつけて見下すような人もいますが、これはビジネスが好きとは言えない。見栄を張って結局、人に迷惑をかけてしまう経営者も、実際に見てきています。
もっとも、経営のセンスは個人の資質が大きく、スポーツで大成できる人とそうでない人がいるように、どうしても成功するのが難しい人はいます。それは向き不向きであって、社員全員が経営者を目指す必要はないんです。自分が向いている分野で、チャレンジすればいいということですね。

――優れた経営者にもさまざまな資質があり、初期の立ち上げに強い人、それを伸ばす人もいて、それぞれに活躍の場を与える、ということも本に書かれています。

 そうですね。新規事業の立ち上げ、育成、拡大――と、それぞれのステージにおいて、求められるスキルや能力は違います。それなりの規模の企業で出世して、安定的な経営を行う社長になる素養のある人もいれば、創業者として花開く異端児的な人もいる。例えば、安田隆夫さんが創業した総合ディスカウンドストア「ドン・キホーテ」は、それまでになかった業態でした。これを構想し、実現して……というのは、大組織のなかでは難しかったと思います。このように、同じ経営者でもさまざまな資質があるのです。
 ですから、例えば事業の立ち上げに貢献したリーダーが、それ以上の拡大施策に失敗したからと言って責められるのは間違っている。ベンチャーバンクでは、それぞれのステージにおいて貢献した人たちが、相応のインセンティブをもらえるような仕組みを作っています。つまり、貢献度に応じて株式を取得する権利が得られるのです。

――そのなかで、あえて成功する経営者の共通点を見出すとしたら、「ビジネスが好き」という以外に、どんなポイントがありますか?

 根底に「自分がよければいい」という、私利私欲のようなものしかない人は、それが結果にも表れます。苦しくても責任を取ろうとする、ということをせず、「やりたい」と言ったのに「すみません」と軽く諦めてしまうのです。例えば、私は自分のものをすごく大事にする、というタイプではありません。ただ、自分の部屋は汚くても、公共の場はきれいにするよう努めています。その逆で、自分のところはきれいにするが、他人のところは汚してもいい、という人は、ビジネスでも同じことをやります。それでは成功は望めないでしょう。

――さて、ベンチャーというと、どうしてもIT、ネット関係で店舗を持たないものが脚光を浴びがちですが、ベンチャーバンクの事業は店舗を持つ“体験型”なのが特徴的です。ネットビジネスとの違いをどう捉えていますか。

 ネットの事業は人数もお金もかからないケースが多く、マネジメントが苦手でも成功する可能性が高まるので、そこから入る、というのはいいと思います。しかし、文字情報や動画などのデータより、実際に“体験”することで得られる情報は圧倒的に多い。どちらがいいということではないのですが、私はリアルのほうがワクワクします。リアルの店舗で事業を次々に生み出している企業としては、飲食なら飲食、というふうに先鋭化しているところが多く、ベンチャーバンクのようにさまざまな業態で展開している企業は少ないでしょう。絞ったほうが効率的で成功の確率も上がるとは思いますが、これもやはり好きなこと、ワクワクすることをひとつのテーマにしているからです。

――「ワクワクする」というのは、この本の重要なテーマでもありますね。これから先、ベンチャーバンクはどのように発展していくでしょうか。未来像も教えてください。

 これは瞑想、ヨガの精神に通じるものなのですが、やはり、会社を支配するのではなく、皆が幸せになれる道を選択しようと決めたので、その理念を軸にして事業を発展させていく、ということがテーマです。ベンチャーバンクが一貫して訴えている「好きを仕事に」という言葉についても、人より得意で「勝てるから好き」というのは、少し違う。ビジネスの場では競争する必要も出てきますが、それにも増して「ワクワク」につながる、「自分が何をしているときが一番幸せか」というところを重視したい。
 もちろん、ボランティア団体ではありませんから、きちんとビジネスとしてやっていかなければなりません。ヨガの精神とビジネスをバランスよく両立させることは簡単なことではないと考えています。お客様に幸せを提供して、自分たちがそこでどう利益をもらって発展していくか――今回の分社化構想はその第一歩でもあって、きちんとこの理念を根付かせていこうと考えています。一度の人生なのですから、最後に「もっとこういうことがしたかったな」と思ってしまってはもったいない。ベンチャーバンクは社員にそんな思いをさせないよう、本書で伝えている理念をさらに深めていきたいと考えています。

BOOKS

僕の会社に来なさい
2005年
ゴマブックス刊

既刊紹介

「僕の会社にもっと来なさい。」
マガジンハウス刊

「社長になろう。」野呂エイシロウ著
マガジンハウス刊